配信日:2013年5月1日
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■■■ 官能開発のメールマガジン
■□■ ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■ 発行者:日本オリエンテーション
■□■ 毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.10□■
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英 の共同メルマガです。
◆INDEX
1.『官能評価から「物語り」を紡ぐ』大西正巳
官能評価を通じて得られた知見は、過去のみならず将来の「モノと人との関係」を物語る貴重な情報源です。
2.『リピートにつながる感覚的効用』高橋正二郎
商売の基本はリピートです。リピートは使った満足から得られますが、お客さまの満足は理解するものではなく、満足は感じるものです。コンセプトに連動した感覚的効用を丁寧に付与することがリピートを生むことになります。
■「官能評価から『物語り』を紡ぐ」大西正巳
NHKの「スーパー・プレゼンテーション(2013.2.25)」でトレイシー・シュヴァリエによる「絵画の中の物語」と題した興味深いプレゼンがあった。シュヴァリエはフェルメールの謎の名画「真珠の耳飾りの少女」に関する物語(後に映画化)などを記した作家です。その画と肖像画二点を選び、「画家がどのような背景・狙いのもとで、絵画中の人物との関係や思いをどう表現しているか」というのを推理して物語にしています。画家の本心や制作時の状況は勿論不明ですが、絵画の鑑賞(つまり官能評価)で得られた情報を総合してその画に隠されたストーリーを読み取り人物ドラマを描くというユニークな試みです。視覚情報を基に想像力を発揮して「画(作品)から絵(物語)を」という意味になりますが、プ
ロファイリングという作業にも似ています。静的な作品から感じ取った具体的な特徴(構図と色づかい、光の当たり具合、衣服や持ち物の様子、微妙な顔の表情、特に眼、口、頬などが発するメッセージ)から浮かぶ人物の背景と心理や感情を実にダイナミックに物語化しています。単なる空想ではなく、感受性、官能的な分析力、社会や文化的な背景の知識、時代の価値観に対する理解を含めた構想力がストーリーを支えているのだと思えます。勿論、鑑賞する人によって感じ方(官能評価)は異なりますので、そこから様々な物語の創作が可能です。
何年見ていても飽きない絵画は多くの謎(魅力)に満ちているようですが、感覚的なメッセージの豊かな作品の方が面白い物語に展開できそうです。シュヴァリエは、永遠に答えの出ないのが「傑作」だと評しています。
さて本題に入りますが、絵画の鑑賞と酒類や嗜好品のテイスティング(QDA評価)とは共通点が多いと思います。酒類商品も基本的には作品であり、名画と同様にアート的な「名品/銘酒」も少なくありません。酒類にとって最も重要な特徴であり本質的価値は姿が見えぬ「香り・味わい」ですが、それもQDAによりビジュアル化が可能です。そこでメーカーとしては他社(新)製品の官能特性から開発者の意図、感覚/感性、製造法等を読み取り、製品の「誕生物語/開発物語」をまずは創作することが大切です。その酒の開発者の思いに立ち、製品コンセプトを表現してみるのが目的です。嗅覚・味覚、触覚(口当たり・喉越し)に視覚(外身・中身)や聴覚(グラスへの注ぎ音や氷とグラスが触れるシズル感のある音)を含めた五感情報になるとストーリーに厚みが増します。そして次に、今後その製品が消費者と関わっていく4W1H的なイメージ(誰が何を期待してどのように飲むのか等)を想定し、評価することも重要です。官能のプロであれば、個々の酒の知覚品質(おいしさや個性/香味特性)と情報がもたらす消費者の心地と飲用メリットを洞察し、仮説(人と酒の関係ドラマ)を作り、検証していくことが必要です。結果的に商品の評価力と開発力が鍛えられると思います。シュヴァリエは「物語を作るのは人間の本能だ」とも述べていますが、「官能/感覚」が商品の物語を作るとも言えます。
■「リピートにつながる感覚的効用」高橋正二郎
TDLが30周年を迎え、累計入場者の5億7000万人が各メディアで紹介されました。ところが、一部に「大半がリピートとはいえ、・・・」という気になる論調がありました。集客力を重視した論調かも知れませんが、商売はリピートという原則をお忘れのようです。多くのテーマパークが経営難に陥り、撤退を余儀なくされていますが、リピートを意識した経営を怠ったことであることは明らかです。私どもが扱う商品も同じで、リピートあっての商売の継続が成り立ちます。
お客さまは商品のコンセプトを評価して「欲しい」と思い、その商品を購入します。そして、使った商品が「満足」できたとき、「もう一度」というリピートになります。ここに、「欲しい」→「満足」→「もう一度」という、ありがたい循環が発生します。このようなリピート・サイクルがどの商品にもできあがることが、私ども商品を企画・開発する者の飽くことのない願いです。
そこで、このリピート・サイクルの完成には、優れたコンセプトが重要なのは言うまでもありませんが、そのコンセプトの中心にある効用が評価されたことになります。効用には実質的効用、感覚的効用、意味的効用がありますが、通常は実質的効用が評価されたという議論になりがちです。ところが満足ということを考えると、実は満足は理解するものではなく、感じるものであることがわかります。実質的効用はともすると感じにくく、お客さまは商品の効用を感覚的に感じて、満足か否かの評価を下しているのが実情でしょう。つまり、満足には感覚的効用が必須であるのです。となると「実質的効用など不要なのか」という訳ではありません。実施的効用を代用特性として表わす感覚的効用、もしくは実施的効用を
感じることをサポートする感覚的効用を付与することが大切になります。どんな優れた効用もお客さまの視点や感覚で感じることができなければ、効用にならないと思います。
実質的効用と感覚的効用を別々に考えていたのではリピートにつながる商品はつくれません。商品のコンセプトにレゾナンスした感覚的効用を丁寧に設計して、実質的効用を感覚的に表現する感覚的効用として盛り込むことにより、リピートにつながる満足感の得られる商品が誕生すると考えます。
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・お客さまの共感を呼ぶ感性価値の溢れた「生活DELIGHT」の商品アイデアを提供します。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。
■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。
■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。
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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第10号(2013/05/01) (c) 2012Japan Orientation
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