配信日:2016年3月1日
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■■■ 官能開発のメールマガジン
■□■ ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■ 発行者:日本オリエンテーション
■□■ 毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.44 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で44号になりました。
◆INDEX
1.『官能評価は実践重視』大西正巳
本来、官能(評価)は外界と自分自身を掘り下げる機能であり楽しい仕事です。難しく捉えずに何かを「感じる」と「考える」ための武器にしたいものです。
2.『本物を目指す』高橋正二郎
お客さまの好まれるものを追求する姿勢は常に忘れてはいけないと思いますが、お客さまの思いを超える本物を作り出して差し上げるのもプロの仕事です。
■『官能評価は実践重視』大西正巳
官能評価は「道具/手段」ですので「何のため」ということが重要です。ただ道具そのものを黒光りするほど磨き続ければ今までにない活用法を見出せることもあり、官能のプロとしての誇りと向上心も醸成されます。
検知力と識別力が最大限に発揮できる絶対的な官能方法はないと思います。従って個々人が最も感度と結果の再現性が高くなる方法や条件を試行錯誤的に見出すことが重要です。勿論、経験豊富な先輩のやり方を大いに参考にすべきですが、単に追随するのではなく、まずは自分の官能方法の標準を固め、自身の官能力と傾向(強み・弱み・くせ)を認識しておきたいものです。ベストな方法がある程度ルーチン化されるとバラツキも少なくなり、自身の官能を基点として他のパネリストやユーザーの官能評価とのバイアス(方向と距離感の違い)を把握し、その中身を考察することも容易になります。一方、官能パネル内で十二分な議論を踏まえて合理的に定められたQDAなどの官能評価法は当然ルールを守り、高感度な分析機器になりきりニュートラルな評価を心がけたいものです。酒類のテイスティングでは、ストレートと割り水サンプルの色調・透明感、香り・味わい・後味を主にQDA評価しますが、状況によっては香味の特徴や総合的な評価を定性的に記述するだけの場合もあります。基本的には、目には見えない香り・味わいの姿・形を官能で捉え、写実的にビジュアル化することが重要です。勿論、特徴を描くためのキャンバス(QDAチャート/フレーバー・ホイール)と絵の具(評価用語)は官能パネルで統一しておくことが必要です。絵の具の種類が多いとカラフル(精緻)な絵が描けますが、サンプルの香味特性と強度(フレーバー・プロファイル)が浮き彫りになる必要最小限の絵の具セットをまずは定めておきます。そしてサンプル間に官能的な差があるにも拘わらずQDAのプロファイルに表れない場合もあるため、官能項目を増やしたもの、あるいは特定の官能項目を分解したチャートも事前に準備しておきたいものです。官能的に感じる特徴やサンプル間の差をQDAプロファイル上に具体的に示すことができるかがポイントになります。
一方、官能評価の標準サンプルについては、品質保証を目的とした異味・異臭の見本や識別訓練用サンプルは常に活用されていると思います。しかしQDA評価の各用語に対応するサンプルが十分に整備されていない酒類メーカーは少なくありません。それらは自他社の既存製品から選定することが望ましいですが、これはと思うものがない場合は工程サンプルや他カテゴリーの酒類サンプルを参考品として用いることも可能です。更には官能用語と特徴をより理解するために複数のサンプルを混和すること、あるいはフレーバー成分を添加して近似サンプルを調製することも方法の一つです。いずれにせよ「官能用語を定めることは、それを端的に示す代表サンプルを同時に定めること」を意識したいものです。官能サンプルと情報をメンテナンスするには設備と多大な労力を要しますが、全社的な戦略ライブラリーのひとつとして大変貴重です。
■『本物を目指す』高橋正二郎
市場にある競合品を並べて、QDAを描いてみます。少しばかり面倒な作業ですが、競合品の官能評価ができれば、市場分析のスタートラインに立つことができます。というのも、QDAが示す官能特性のデータは嗜好に直結するデータですので、何が好まれ、何が買われているのか、ということを考えることができます。
まず、その出来上がったQDAをみると、似たような商品もあれば、相当違う商品もあります。似たような商品は似た同士でグループを作ってみると、市場の状況が少しですが見えてくる場合もあります。商品を個別にひとつひとつ丁寧にみることも大切ですが、グループで全体をみわたすと、この特性とこの特性のバランスで市場は成り立っている、というような全体を動かしている要因に気づくこともあります。さらに想像力を働かせて、このグループはこのような官能特性なので経験の浅い人にわかりやすい商品と思えるとか、あるいは少しお歳を召された方に向いているとか、というようなことも議論ができます。
ここへ、競合品それぞれの市場からの情報が加われば、QDAのデータを組み合わせてもっと立体的な市場の様子が見えてきます。売れているのか、それとも売れていないのか。もし売れているとしたら、「この商品は若い人に買われているようだ」、「この商品はAからのスイッチが多い」、というような情報が得られればQDAを読むのも楽しくなります。2つの特性を選択した官能空間上に属性別の嗜好マップを作成することも可能になります。2つの特性を入れ替えたマップをつくれば、さまざまな官能空間上でのマッピングが可能になります。さらに、多変量解析によって全体を押し込んだ官能空間における嗜好と属性の関係を議論することもでき、嗜好の状況の把握もより深化していくと思えます。これらは非常に面倒な作業ですが、お客さまのためには大切なことです。
ところが、壁はどこにも存在していて、ここでも大きな疑問に突き当たります。マップを眺めていますと、「この辺りがピークかな」と、嗜好の中心を探っていくことが可能になりますが、「果たしてここがピークだろうか」という疑問も涌くことがあります。このマップには示されていないところにもっと好まれるものがあるかも知れない、という疑問です。翻れば、このマップの情報のもとは市販品で、あくまで市販されている商品の範囲での情報です。一方、軽はずみな判断は慎まなくてはいけませんが、あくまでお客さまの嗜好です。お客さまの中には、たくさんの商品に触れる機会が十分な方もいらっしゃいますが、そのような方ばかりではありません。失礼な言い方になりますが、「所詮は素人さん」なのです。
プロの私たちはお客さまのおっしゃることに耳を傾けるのは当然です。でも、もっといいものがあるという信念を持つことを忘れてはいけないと思います。つまり、本物があるということです。マップには現れてはいないけれども、嗜好の領域を延ばしていったとき、その先にあるもっと好まれるものがあると信ずるものを目指さなくてはいけないと思います。お客さまの嗜好を尊重して、その嗜好を超えるものをつくることこそ、プロの仕事だと思います。また、それを積み重ねることにより、「本物」に到達できると信じたいです。
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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。
■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。
■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを33年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。
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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第44号(2016/03/01) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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